【閑話】創作落語1 「ベジ神様と猫御前」

いろんな神様がおりまして、最近ではベジ神という、エシカルな神様もおられるようでございまして…
 
猫御前(以下、猫) :「こんちは。」
ベジ神様(以下、神):「おお、お前さんは猫御前じゃないか。どうしたこんなところへ来て。」
猫:「もう、現世が、地上がいやになってしまったのでございます。」
神:「どうしてじゃ。」
猫:「ベジタリアンには生きづらいのでございます。動物は食べ物じゃない、と当然のことを言ったり書いたりいたしますと、やれ偽善者だ、植物だって命だとか、空気だけ喰ってろとか、虫一匹殺さないように外に出るな、とかひどい言われようなのでございます。」
神:「うむ、それは困ったな。」
猫:「はい。困ったものでございます。」
神:「猫御前よ。」
猫:「はい、なんでございましょう。」
神:「お前がここにいたいというのなら仕方がない。お前さんは救われるだろう。」
猫:「はい。」
神:「でも、お前さんが動物は食べ物じゃない、と言うのをやめてしまえば、お前さん以外の生き物たちはどうなる?もっと地獄になってしまうぞ?」
猫:「…ええ、わかっております。」
神:「お前さんはどちらの道を選ぶこともできる。自分が救われることも、他の生き物を救うこともできる。お前さんの人生じゃ。それは俺が決めることじゃない。」
猫:「はい。」
神:「しかし猫御前、俺はお前に力を与えよう。」
猫:「どんな力でございますか。」
神:「語りの力だ。ただ主張すれば、人々は耳を傾けてくれないばかりか、反発すらしてくるだろう。だから、昔から語り、というものは大切にされてきたのだ。」
猫:「ほう。」
神:「お前さんは落語が好きだな。いまどきのもんにしては珍しい。落語はなぜ魅力的か、お前さんなら分かるな。」
猫:「はい。生き生きとして、しかし押しつけがましさもなく、聴かせることのできる芸だからでございます。」
神:「そうだ。よくわかっているな、えらいぞ猫御前。お前さんは語るのだ。しゃべるでもなく、叫ぶでもなく、嘆くでもなく、語るがよい、猫御前。さあ、地上に戻るのだ。お前には仕事がある。たくさんの命が待っているではないか。」
 
…目が覚めると、猫が枕元で、じっと猫御前を見つめていた。さあ、起きて、まずごはんをちょうだい、と猫は言った。そうだ。ベジ神さまのところから戻ってこなかったら、この子にご飯をあげることもできなかったのだ。
 
 
 語り:猫家知恵蔵  
 
 
(この作品は、猫家知恵蔵のオリジナルです。)



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