書籍「動物のいのち」

2003年のノーベル文学賞を受賞し、ブッカー賞(*1)を二度も受賞しているJ.M.クッツェーは、アニマルライツを支持している。
その心情を投影したのがこの作品だ。
もちろん、彼は動物を食べない。
工場畜産を批判するスピーチをしたり、オーストラリアのアニマルライツ団体に支援金を出すなど、積極的に動物を救う行動をとる人物だ。

動物のいのち、とてもストレートなタイトル、これは難しい哲学書ではなく小説だ。小説を読みながら、哲学を学べる貴重な本なのだ。
その哲学を人に説明するための本ではなく、自分で感覚として理解するため本だ。
この本の内容を説明するのは難しい。
小説なので、あらすじは説明することができるが、クッツェーが伝えようとしたことを言葉で説明することは難しいのだ。

あらすじはこうだ。
クッツェーの別の小説「エリザベス・コステロ 」のエリザベスが、息子の勤める大学にやってきて講演をする。話は息子の視点で進む。エリザベスは動物を食べないが、息子も息子の妻と子どもたちは動物を食べる。その遠い遠い感覚の違いに、エリザベスは苦悩し、息子は母が何に苦しんでいるのか、理解することができない。

この'小説'に対する4名の批評が続く。
マージョリー・ガーバー: ハーバード大学教授 シェイクスピアやセクシャリティを含む文化についての書籍を出している人物。
ピーター・シンガー:タイムズ紙が選ぶ影響力のある100人に選ばれたこともある哲学者。「動物の解放 」や「動物の権利 」を書き、世界のアニマルライツ運動を浸透させた。アニマルライツセンターにもメッセージを寄せてくれている。
ウェンディ・ドニガー:シドニー大学教授。宗教史
バーバラ・スマッツ:ミシガン大学教授 心理学・文化人類学

エリザベスは理論的に説明をする活動家ではないようだ。心のままに言葉を発し、内面を重視する。
それは正しいことだが、だからこそ議論や反感を買ってしまうのかもしれない。
いのち というものを、理路整然と説明することはとても難しいことだ。

功利主義や権利論などと言葉を与えてみても、結局その感覚を体感しなければ、エリザベスの心は理解できないのかもしれない。
”動物のいのち”を理解する一助に、読んでみてほしい本の一冊だ。

*1 ブッカー賞は英国の文学賞で、世界的に権威のある文学賞。2度受賞しているのはたったの3人だがクッツェーはその一人。

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