世界で最も有名な現代哲学者の一人はピーター・シンガーだろう。そのピーター・シンガーの新しい日本語の書籍が発刊された。1980年代に出された『動物の解放』の一部とともに、新たに書いたエッセーなどが掲載されている。あまり小難しい哲学的な理論は本書では展開されておらず読みやすい。
ピーター・シンガーの倫理の基準にあるのは昔から変わらず、苦痛・苦悩だ。人だから、動物だからと線を引くのではなく、動物たちの苦しみを考え動物たちを食べるのをやめたとしている。
タイトルは「なぜヴィーガンか」と書かれており、ヴィーガンの本かと思いきや必ずしもそうでもない。ピーター・シンガー自身、フレキシブルなヴィーガンでありヴィーガンではないと言っている。ただし彼はその商品のもたらす結果を重視して食べるものを選んでおり、自ずとほぼヴィーガンということになる。
また、彼の理論の中ではやはり、ヴィーガンの購買行動を支持しているといえる。なぜなら動物を食べ物として、実験台としてみることからの脱却を促しているからだ。
もしピーター・シンガーの『動物の解放』を読んだことがない方には(発行部数は少ないそうなのでほとんどの日本人が読んだことがないと思われる)ぜひ本書をおすすめしたい。読みやすいボリュームだし、動物の実態、時代の変化も読み取れる。訳文もとてもわかり易い。
おすすめする理由は、実は、(というほどでもないが)アニマルライツセンターは少なからずピーター・シンガーの理論の影響を受けているからだ。私が23年前にアニマルライツセンターの門を叩いたときに出された課題図書はピーター・シンガーの『動物の解放』であった。彼の述べた『動物の解放』が実現されるのはまだはるか先に思える。それでも最初に動物の解放が書かれた時から、そして私が動物の解放を読んだときからも社会は大きく代わり、まだ解決策を日本でちゃんと実行できる状態とは言えないが、解決策がもうある状態になっていると言える。ぜひ未来を共有するためにも知ってほしい考え方だ。
さらに、ピーター・シンガーは哲学者として成功しており、最も影響力のある哲学者と呼ばれている。しかし彼の話(youtubeなどでも多数見ることができる)は、我々が哲学者に抱く混沌とした理論を小難しい言葉と反芻で思考する人々(※偏見ですが・・・)というイメージと異なり、起きている事実を描写するものであり、社会課題解決型であり、わかりやすい。中立を保ちたがり社会を変える責任を回避したがる多くの学者とはことなり、動物たちを救おうとする運動にもきちんとコミットしている。こういう学者の勇気ある理論のほうが信頼できる。