映画「みつばちの大地」

現代の養蜂はまさに工場型畜産だ。
養蜂を畜産と言うのに違和感を覚える人もいるかもしれないが、農業において養蜂は畜産に位置付けられており、養蜂における個々の蜂は「家畜」という分類になる。

牛豚鶏など、現代の工場型畜産は動物からの搾取度合いが激しく多くの倫理的問題を抱えているが、養蜂も同様だ。否、搾取の激しいものから順番に並べると豚や鶏を差し置いてトップに躍り出るかもしれない。そういった養蜂の実態をこの映画はさらけ出している。

ヴィーガンはハチミツを食べない。
そう言うと「ハチミツくらい、いいんじゃない?殺してないわけだし」と言われることがよくある。しかし実際は多くの蜂を殺している。より多くのハチミツを採取するために人為的、そして機械的に行われる分蜂(巣を分けること)では、無造作にそして暴力的にミツバチが殺される。この分蜂の過程でほとんどの女王バチは死んでしまうという。そして死んだ女王蜂の代わりにブリーダーに育てられた女王バチが巣に導入される。
ハチミツを採取する過程も残酷だ。ある日突然巣箱ごと移動させられ煙でいぶされ自分たちのコロニーのほとんどを奪われてしまう。ミツバチにとってはまさに青天の霹靂で、なぜこのような目に合うのか、さっぱり分からないだろう。ただ耐え忍ぶしかない。
ミツバチが一生の間に集めることができるミツはスプーン一杯分だという。スプーン一杯分などパン一枚に塗るにも足りないくらいの量だ。ミツバチが自分の家族のために身を粉にして集めたミツを無造作に奪い一食の食事で食べ尽くす。それが養蜂だ。

この映画を見れば、ヴィーガンがハチミツを拒否する理由もきっと納得してもらえるだろう。ハチミツでなくても、アガベシロップやメープルシロップがあるし、そもそも甘いものが欲しいなら、てんさい糖で十分ではないか?

わたしはアニマルライツの観点からこの映画を語っているが、この観点は映画がつくられた意図とそうは変わらないだろう。2014年に公開されたこの映画では、数年前から世界中でミツバチが死にはじめている。その理由を探すべく世界中を回り取材が行われている。行きついた答えは「近親交配、殺虫剤、ストレス、抗生物質、それらすべての複合だ。ミツバチは人間の文明のために死んでいる。」映画の中でそのように語られている。

私たち人間はやり過ぎているのだ。ほかの種に対して。

アニマルライツついでに言っておくと、この映画の中に出てくるベルリン自由大学のミツバチ研究者の実験はミツバチに対して非常に侵襲的で暴力で大問題だ。
ミツバチの意思決定能力を知るために、ミツバチ自身の体の大きさと変わらないくらいの発信機のようなものをミツバチの体に取り付けてミツの採取の様子を観察しているが、自分の好奇心を満たすためにこのような巨大な発信機を接着してミツバチに負担を与えることが許されるのだろうか。そしてこの発信機はどうやって取り付けたのだろうか?接着剤?どんな動きにも落ちずに堪えられるくらいの接着能力の高い接着剤を使用したのなら、ミツバチを傷つけずに体からはがすことは可能なのだろうか?ミツバチは使い捨てされているのではないだろうか。
またこのベルリン自由大学の研究者はミツバチの頭を切開して脳の働きを観察しているが、ミツバチは粘液質の身動きできない半固体のようなもののなかで保定されている。その状態で頭蓋を四角に切り取って脳をさらけ出させているわけだが、ミツバチはその半固体のようなものの中で動いている。身悶えているようにも見える。動いているのなら麻酔の投与もなしで頭蓋を切開しているのではないだろうか。麻酔が投与されていたとしても、実験に使用されたミツバチはおそらく廃棄されているだろう。
このミツバチに淫しているようにも見える研究者は、もはやミツバチの研究をしたいという気持ちを抑えることはできないかもしれないが、せめて非侵襲的な方法を考えるべきだろう。

2016年10月30日に開催されるEthical VEGAN Fest 3rd Impactではこの映画の上映会も行われるという。関心のある方はご覧になってはいかがだろうか?
http://www.hachidory.com/event/00/id=423

この文明社会の中で生きる人間として、知っていて損はない情報が詰まった映画だと思う。

 


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