井上太一氏による翻訳は第5冊目となる。
「アニマルライツだけの」本を翻訳するという井上氏。
これまでの本は、アニマルライツ活動をする上で知っておきたい情報が満載で、もはや「資料」と言っても良いほど濃厚な内容だったが、今回の本はそれより少しライトだ。
菜食への疑問に答える13章は次の章からなっている。
1.植物なら食べてもいいの?
2.食の楽しみは?
3.健康はどうするの?
4.お乳や卵はいいんじゃない?
5.チーズバーガー、注文してもいいかな?
6.どうせ動物はもう死んでいるでしょ?
7.中絶にも反対とか?
8.動物も他の動物を食べるけど?
9.神様は人間を他の動物よりも上に置いてくれたのでは?
10.でも伝統民族だって動物を食べるよね?
11.「人道的」に育てられた動物ならどう?
12.みんなが菜食人になったら、農所の動物たちはいなくなっちゃうんじゃない?
13.完璧な菜食人にはなれないんだから、こだわらなくてもいいんじゃない?
どうだろうか菜食人の皆さん。
これまで何度も何度もこれらの質問にてこずされてきたのではないだろうか?
「あれこれ言わずに動物食べるのやめたらいーんだよ!」で相手が菜食になってくれればそれに越したことはないが、世の中そう甘くはない。時には相手に論理で納得してもらうことが有効なときもある。
この本はこれらの疑問に明快に答えてくれる。
アニマルライツ活動家にとって必須の一冊といえよう。
また逆に
「植物は食べてもいいのか?」
「動物だって動物食べてるよね?」
という人にこの本をそっと勧めてみるのも良いだろう。
彼らが理論的に納得してくれるのは間違いない。もしかしたら菜食人への道へ一歩踏み出すきっかけにもなるかもしれない。
*この本の中で動物の解放論を唱えたPeter Singerが「動物を痛みを与えず殺すことは問題ない」また、「長期の計画を立てられない下等な動物を殺すのは不道徳ではない」と主張しているとされているが、この部分については誤解を招くので言い添えておきたい。
シンガーは実際にはそのような単純な主張はしていない。シンガーの著書『動物の解放』を読めばわかるが、その中で彼は、動物を痛みを与えずに殺すことは現代の工場型畜産では不可能であり、おそらく殺される前に仲間の血の臭いを嗅ぎ自身の死を予感しているだろうと述べている。また『動物の解放』のなかで、シンガーは「彼らが私たちより下等な動物だから、感覚も私たちのものより鋭くないという、という考えはばかげている」「動物は未来を予測することができないぶん人間より苦しむかもしれない。捕まえられただけで殺されるのと同じような恐怖を味わうかもしれない」と述べている。これらのことと、シンガーがあらゆる機会に動物への差別の非倫理性を説き菜食への転換の必要性を訴えている事実を考えると、『菜食の疑問に答える13章』の中でのシンガーの記述についてのみは、やはり適切なものではないと思われるので、ここに記しておく。