映画『クラウドアトラス』クローン人間の一生が工場畜産の動物たちの一生そのもの

2012年製作/172分/PG12/アメリカ
原題:Cloud Atlas
配給:ワーナー・ブラザース映画
原作:デビッド・ミッチェル

「マトリックス」のラナ&アンディ・ウォシャウスキー兄弟(姉妹)と「ラン・ローラ・ラン」のトム・ティクバが監督。トム・ハンクスやハル・ベリー、スーザン・サランドン、ヒュー・グラントら豪華俳優が演じる、過去・現在・未来、異なる時間と場所で6つの物語が同時進行する物語です。

その中で、2144年が舞台のネオソウルで、純血種(人間)に造られたファブリカント(クローン人間)の物語があります。このファブリカントの製造、処理工場や彼女らの一生は現代の工場制畜産の動物たちの一生そのものです。
純血種のような自由意志がないといわれているファブリカントは、純血種のために労働させられています。金属の首輪で管理され、決まった時間に起床、決まった食事を摂取し、労働に従事させられています。しかし彼女らには、搾取されているという自覚や純血種に対する反逆の感情は湧かないよう教育されています。
ある日、レストランでウエイトレスとして働いていた彼女らの一人が、客の行為に堪えきれず客を殴ってしまいますが、首輪に取り付けられた小型爆弾でその場で「処分」され、レストランでは何事もなかったかのように日常が進行していきます。
彼女らは12年の労働が終わると解放され楽しいところに行けると聞かされており、労働満了の式典では仲間の羨望のまなざしとともに喜びいっぱいで送り出されますが、実際はその後、屠殺されてしまいます。首を切られ、胴体がラインで吊り下げられている処理工場の映像は畜産動物の食肉処理工場ですし、「処分」されたファブリカントの体が再利用され他のファブリカント用の栄養源として供給(共食い)されるのも、畜産動物の最終工程であるレンダリングを彷彿とさせます。
そんなファブリカントの一人であるソンミは、ある日、革命軍のヘジュに助けられます。外の世界を知り、自分がそれまでいた場所がどんなところだったのかを理解した彼女は、この世界を変えるために立ち上がります。結局は処刑されてしまいますが、その意志は受け継がれ、物語の一部として未来につながっていきます。

この物語は、同じ俳優が、時代や国、性別まで違う人物を演じており、その変遷をたどることで、生まれ変わりや輪廻といった魂のつながりも描いています。
また、1849年南北戦争直前で奴隷貿易真っ只中のアメリカから、2321年の文明崩壊後の地球まで、6つの時代を同時に見ることで、人間は進化しているようで全く進化しておらず、同じ過ちを繰り返し続けていることがわかるようになっています。
このファブリカントたちの一生が畜産動物の一生を元にしていると指摘しているレビューは海外では文献にまでなったりしていますが、日本ではまったく見かけません。それだけ日本では畜産動物の現実が知られていないということなのでしょう。

この物語は複雑なので、一度見ただけでは理解しきれない部分も多いですが、ネットではいろんな人が人物相関図や解説などを書いてくれているので、それを参考に鑑賞するといいかもしれません。

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