【閑話】創作落語3 「猫御前欲求問答」

猫御前になんでも聞いてみたくてしかたない、なぜなぜ太郎。 太郎はもっともっとあれこれ聞いてみたいという知識欲のかたまりになっています…
 
なぜなぜ太郎(以下、太郎):「猫御前さん、ああしたい、こうなりたい、と思うことはいけないことかい?」
猫御前(以下、猫):「そうさね、どうだろうね。」
太郎:「だって、そう思わずにただ生きる、って退屈だし、難しいよ。生身の人間には無理だ。ヴィーガンだって、ヴィーガンな美味いものを喰いたい、ヴィーガンなファッションを楽しみたい、っていうそういうはなしになっていくじゃねえか。」
猫:「そうだね、そうなるね。」
太郎:「それなら、なんでヴィーガン、ヴィーガン言うんだい?結局同じじゃねえか。」
猫:「太郎ちゃん、欲には2種類あるんだよ。」
太郎:「へ?」
猫:「プラスの欲とマイナスの欲、とも言える。『欲望』と『欲求』と分けて考えることができる。」
太郎:「なんだか難しくなってきたな。」
猫:「太郎ちゃんなら分かる。だいじょうぶだよ。欲望っていうのは、自分がああしたいこうしたい、ただそれだけでやみくもに動いている状態、と言える。だけど欲求というのは、もっと知的で深みのあることなんだ。世の中をよくしたい、他者を苦しめず、環境に配慮したいいものが欲しい、というのは欲求。似ているようで、ぜんぜん違うんだ。」
太郎:「…考えたこともなかったよ。」
猫:「欲求、という概念があれば、ヴィーガンはストイックにならなくていい。動物たちのためにあれこれ我慢する、という話から、動物たちにやさしく、その結果自分にとってもいいものを求める、というポジティブな生き方に変換するんだよ。」
太郎:「…難しくないかい?」
猫:「太郎ちゃんは恋をしたことがあるかい?」
太郎:「ばかにするなよ、おれだって恋の一つや二つ…。」
猫:「相手を想う、っていうのはどんなことかそれなら分かるね。」
太郎:「…想う、か。」
猫:「自分が相手に会いたい、振り向いてほしい、自分だけを見てほしい、というのはただの欲望だね。これがエスカレートすると、深刻なDVやストーカーに発展する。」
太郎:「俺、そんなやつたくさん知ってるよ。程度は違うけどさ。」
猫:「それが相手を想う、っていうことかい?」
太郎:「いや、違う。それは、自分が好きなんだ、そういうやつは。」
猫:「太郎ちゃん、よくわかっているじゃないか。だから、相手を想うなら、どうすればいいんだい?」
太郎:「相手の嫌がることをしないことさ。」
猫:「そうだよ。そうなんだよ。する、ことじゃなくて、しない、ことなんだよ。」
太郎:「恋から、愛に変わるとか、よく言われることかい?」
猫:「そうも言えるね。恋は病気だけれど、愛はためらうこと、距離を置くこと、とも言われる。」
太郎:「なんだかさびしいかんじもするけどな。」
猫:「そうだね。でもそのさびしさから、人はいろいろ学ぶことができるよ。」
太郎:「ヴィーガンもそうなんだね?」
猫:「そうだよ。古今東西多くの学者、哲学者、芸術家たちはベジタリアン、ヴィーガンなのもよくわかるね。知的なことなんだよ。」
太郎:「表現者には必要なことなんだね。」
猫:「そうだよ。自分が表現したいことと、相手がそれを素晴らしいと思うことが一致することが芸術なんだよ。自分だけが言いたいことを言ってもだめで、相手に媚びるだけでもだめだ。」
太郎:「ヴィーガンの料理とかファッションっていうのはそういうことなんだね。」
猫:「そうだね。そういうことだね。」
太郎:「猫御前さん、そのデニムのオーバーオールのスカートとても似合っているよ。」
猫:「そうかい?ありがとう。近所のリサイクルショップで買ったんだよ。新品を買うと、タグやら袋やら税金やらレシートやら最初の洗濯やらいろいろ面倒だけど、そんな面倒が全くなくてすごく楽だよ。色もいい具合に落ちているし。」
太郎:「猫御前さんの生き方がよく出ているよ。」
猫:「そんな風に言ってくれてうれしいよ。」
 
 
いい出会いがある、ということは、ダイレクトに生き方を変えて行くんだな、と太郎はそんなことを思った。こないだ部屋を片付けて、着ない服とかたくさん出てきたから、リサイクルショップに持っていこうと思った。売れたらアニマルライツセンターに寄付をしよう。猫御前さん、喜ぶだろうな。それが、今のおいらの「やりたいこと」なんだ、となぜなぜ太郎はいつになく気分がよく、帰り路を急いだ。
 
語り:猫家知恵蔵
 
※この作品は猫家知恵蔵のオリジナルです。
 
猫家知恵蔵ブログ
http://ameblo.jp/lavenderroom2009/entry-11869148914.html
著書「Veganという生き方」「生きルーム」

http://mind-k.com/book/



 

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