アニマルライツ作家発掘⁉ 食用動物を思いやる小熊秀雄文学

2022年2月のアニマルライツチャンネルで話題にして以来、ポチるひと続出の発掘図書です。番組では2冊紹介しましたが、作者の小熊秀雄は1920年代から39歳で没する1940年ごろまで、詩・童話・評論・絵画など、幅広い分野で活動しました。

小熊は養鶏場で働いたことがあるそうです。その経験がないと表現できない『養鶏場』という詩作品には、人間のために卵を産む鶏夫婦に対する慈愛のまなざしや、今のようなバタリーケージのない時代の活発な鶏の様子が動的に表現されています。

もともと北海道小樽市の生まれで、自然や動物とのふれあいも多かったであろう彼の作品には、動物が多く描かれます。とくに食用動物の悲しみをストレートに描いた童話『焼かれた魚』は英訳もされ、いまも世界中で読まれています。アニマルライツという思想が現れるのが1980年代ですから、大正生まれの小熊の感性の先進さには驚かされます。

彼が活躍した時代には満州事変という日本の政治体制を変える大事件がおこり、作家や思想家が弾圧される時代にはいりました。小熊も斬新な物言いをする作家であったし、このあたりの年代の文学を生活困窮者の苦しみを表現するプロレタリア文学と分類することが多いので、小熊作品は長くプロレタリア文学群として読まれてきました。たとえば『焼かれた魚』の主人公魚は苦しむ労働者の比喩であるという解釈です。

しかし今の時代にあらためて小熊作品を読むと、彼が差別のない地平から、蹂躙されるものの悲しみを、魚であれ鶏であれ、言葉にせずにはいられなかったことがわかります。今の時代とは、食べられる動物の悲しみに人々が気が付いた時代のこと。同時代に小熊のような視点の文学作品は、海外にも存在しません。日本人の動物を思いやる気持ちは捨てたものではないようです。その証拠に、世界の手塚治虫作品には小熊秀雄の影響があるそうです。

『小熊秀雄詩集』 岩波文庫
『焼かれた魚』パロル舎 日本語英語同時収録版

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