「効果的な利他主義者」とは何か。
ネットを見るといろいろ難しいことがかかれているが、ようは、世界のために一番たくさんの良いことをしようとする人のことだ。
利他主義という言葉は多くの人が知っているだろう。
そして利他的な行為をしたことがある人もたくさんいるはずだ。災害ボランテイアにいったり、飢餓で苦しむ子供たちのために寄付したり。
この本ではそういった利他行為をすすめるとともに、もっとも効果的な利他行為の方法が書かれている。
たとえば白血病の男の子に一日「バットキッド」になるという夢をかなえてあげようという募金。
これはメイク・ア・ウィッシュ財団が2013年に行ったものだそうだ。メイク・ア・ウィッシュ財団によると一人の夢をかなえるのにおよそ7500ドルかかるという。
「効果的な利他主義者」であればこの夢のために寄付はしない。なぜならば同じ7500ドルをマラリア予防に使えば、少なくとも3人以上の子供の命を救うことができるからだ。
こういった効果的な利他主義者の行動はときに反発を招く。つまり「冷たい」ということだ。彼らは感情ではなく理性と数字で動くがゆえに非難にさらされることがある。寄付は対象者の顔が見えるもののほうが集まりやすい。同情を引きやすいからだ。例えば笑顔の子供の写真ややせ衰えた子供の写真だ。でも効果的な利他主義者は広告に惑わされない。その寄付が実際にどれだけの苦しみを除くことができるのかに注目し、寄付先を精査する。
本書には一見少し納得できないような効果的利他主義者も登場するもしれない。
冒頭で登場するマットもそうだ。
かれは世界のために一番たくさんのことをするのにどうしたらよいかを何度も繰り返し考えた。そして、「裁定取引(市場間の価格差を利用して利益を得る取引)を行う金融企業に勤めることにしたのです。収入が多ければ、それだけたくさん寄付ができます。大学を卒業してから一年後には、マットは収入のおよそ半分にあたる6ケタにのぼる金額を、極めて効果的なチャリティに寄付していました」
おそらくもともと利他主義で社会運動に携わっているようなひとであればあるほど、マットの行為を納得できないと感じるだろう。なぜなら社会の格差や搾取は資本主義にありその資本主義の片棒を担いでいるのが金融業、と考えるからだ。
でも効果的利他主義者の考えはもっと現実的だ。このことについてシンガーは次のように書いている。かなり端折っているので、より詳しく読みたい人は60ページの「資本主義とどう向き合うか」を読んでみてほしい。
「いずれにしろ、現代の資本主義経済をすべて捨て去るべきだという人たちは、それよりいい結果を生み出すような経済システムをこれまで一度としてきちんと提示できていません。また、この二十一世紀に別の経済システムへの転換がどのように起きうるのかも提示していません。望もうが望むまいが、この先当分のあいだは、形は多少違っても資本主義からは離れられないでしょうし、資本主義が続くとすれば株や債券や商品取引の市場はなくならないでしょう。こうした市場は、資本調達、リスクの軽減、商品価格の変動緩和といった、さまざまな役割を果たします。それ自体が悪だとは思えません」
どうだろうか?わたしもはじめマットの選択に「それってどうなの?資本主義に加担してるじゃん?」と思った一人だが、シンガーの言う通り実際には資本主義は続いていくのだ。資本主義ではない社会にはあこがれるが、他者を苦しみから救うのは現実的な行動であって、理想論ではない。
マットの行動からも分かるように、効果的利他主義者は徹底して現実的だ。情緒的な感情を優先させない。自分の主張を優先させない。世界のために一番たくさんの良いことができる方法が彼らの行動基準なのだ。
シンガーのいう利他主義の「他」にはもちろん動物も入っている。
本書ではレブロンやエイボンといった化粧品会社に動物実験を止めさせることに成功したヘンリー・スピラも「効果的な利他主義者」として取り上げられている。スピラの活動は数百万もの動物を悲惨な苦しみや痛みから救っている。
本書では詳しく触れられていないが、スピラの行動はまさに効果的なやり方だった。動物実験者を悪とみなすことはせず、常に対話を求め、動物利用の代替法を見つけるための妥当なステップを企業に求めた。
自分の腎臓を他者に提供するという利他行為をしたヴィーガンの学生のクリス・クロイも出てくる。
「クリスがヴィーガンになったのは倫理的な理由からですが、その目的は動物の苦しみを減らすことなので、乳製品や卵を少しでも使った食べものを避けようとするのは時間の無駄だと考えています。実際、ヴィーガンになりたい人でも、あまり厳格にやろうとすると意欲がそがれてしまいますし、それであきらめてしまえば結果的に苦しみを増やしてしまうことになります。」
クロイの思考はまさに効果的利他主義の思考と言えるだろう。
確かに食べものの成分一つ一つをメーカーに問い合わせて「この『アミノ酸』には動物性のものが入っているのか?」と調べる行為が動物の苦しみを減らすことにつながっているとは考えにくい。そもそも厳格にするならば野菜でさえ動物性ゼロかどうか確かめなければならないだろう。肥料の中には農場の中で死んだあるいは淘汰のために殺された動物たちの死骸がまぜこまれているのだから。
しかし効果的な利他主義者はそういった些末事にこだわり時間を費やすことはしない。限られた時間を有効に使いたいからだ。
彼らを動かしている力は、一刻も早く他者の苦しみをなくしたい、という強い思いだ。
もちろんマットは腎臓移植がどれだけの量の苦しみを減らすことができて、自分に対するリスクがどれくらいなのかを検討し、それがより多くの人を幸せにできる選択だという結論を出した上で腎臓移植を実行している。
無駄な行為に時間を費やせるほど人生は長くないのだ。
この本の中で、Global rich listというサイトが紹介されている。
http://www.globalrichlist.com/
ここに自分の一年間の収入を入力してみると、日本で一般的な生活を送っているほとんどの人は世界の金持ちの10%以内くらいには入るだろう。寒さ暑さをしのぐこともできず水一杯を飲むために一日の数時間を歩かなくてはならず目の前で自分の子供他死んでいくのを見ているしかない人たちが世界にはたくさんいる。残酷な扱いを受けて死んでいく畜産動物たちの数を合わせると、その苦しみは膨大な数にのぼる。
私たちが彼らのためにできることは何か、そしてその最も効果的な方法は何かを、この本は読む人に示してくれるだろう。