著者は田上孝一氏。
田上氏は哲学や倫理という観点から動物の解放や権利について語り、そして自ら実践する、数少ない日本の学者の一人である。
タイトルからしてなんだか難しそう、と感じるしれないが、内容はとてもとっつきやすい。
まずはじめに、動物をとりまく哲学・倫理の歴史がわかりやすくまとめられている。
動物をかえりみない人間中心の社会 →
功利主義の立場から動物への平等な配慮、そして「動物の解放」を立論したピーター・シンガー →
シンガーの考えでは不十分だとし「動物の権利」論を提唱したトム・リーガン →
そしてそのあとに続く地球全体主義ともいうべき環境ファシズムや、すべての生命存在は人間と同等の価値を持つという「ディープエコロジー」までが網羅されている。
体系立てて動物倫理について学びたいという人には、この部分は特にうってつけの内容だ。
後半の第五章、六章は「牛肉食の神話」「ベジタリアンと健康問題」「ベジタリアニズムとは何か」といったタイトルにあらわれているように、哲学・倫理学的な話というよりは、むしろ実践的な話がまとめられている。
田上氏は「人間を人間であるという理由だけで優先するのは、”種差別(スピーシーシズム)”だ」というシンガーの議論に出会った時衝撃をうけたという。しかしそのシンガーの議論に同意するということはベジタリアンになるということであり、当時、大の肉好きであった田上氏にはシンガーの議論は「リアリティのない絵空事」にしか思えなかったそうだ。しかし田上氏はいまベジタリアンで肉食を抑制したライフスタイルを確立している。その田上氏がベジタリアンの実践について書いたこの五、六章には強い説得力がある。
ベジタリアン(あるいはヴィーガン)を試してみたいけど肉を断つなんてできるわけないとためらっている人、完璧にやらなければならない(つまりヴィーガンに)のではないかとためらっている人は、そこに答えを見つけることができるだろう。